No.012 2000/09 お仏具の知識/「仏具の歴史と変遷 第1回」

仏具の歴史と変遷 第1回

「仏具の歴史とその変遷 第2回第3回

・浄土真宗本願寺派兵庫教区阪神西組金衆寺前住職
・元文化財保護審議会専門委員
・元奈良大学教授故 光森正士先生

1.はじめに

 「仏具」といえば、文字にしてわずか二文字であるが、その内容は実に多種多様である。しかも仏教で用いられる諸用具はいずれもこの「仏具」の二文字で片附けられているが、これはかならずしも妥当なものとはいいがたい。上代の仏教では仏具を「仏分」「法分」「僧分」、あるいは「通分」というふうな分け方がなされており、いうならば仏・法・僧の三宝の区分に従って分類せられていたのである。「仏分」とは文字通り仏に直属するものを指す。これこそ仏具中の「仏具」と称すべきものである。「法分」とは教法を行ずるためのものであり、法要・儀式に欠くことのできないものである。一般に「法具」というのはこれである。「僧分」とは教法を実践する僧侶が必要とするものであり「僧具」と呼ぶ。最後に「通分」とは仏・法・僧の三宝の中にあって通有した形で用いられるものをいう。
 このように仏具は基本的には、仏具・法具・僧具と分けるのが古くからの正しいあり方といえるが、しかし仏具にはまた別な分類法もある。例えば仏の偉徳をより効果的に示さんがために、礼拝の対象である仏像の周辺を荘厳するもの、これを「荘厳具」という。すなわち、天蓋、宮殿、厨子、須弥壇、幡、水引、上卓、前卓、礼盤、脇卓などである。また、仏を供養するものを、「供養具」というが、香、華、燈はもとより飲食用具、献物台など仏前や堂内にあるものは勿論のこと、屋外の灯籠などもこれに含まれる。次にもうひとつ「梵音具」がある。これは、仏教の用具のうち、音を発するもの一切をいう。例えば、梵鐘、喚鐘、太鼓、雲版、磬、鰐口、鐃、鉦、鉦鼓、鑿子、木魚、音木などである。このほかに僧侶がつねに身のまわりに携えるもの、僧具や他に法具などを別項に立てる分類もある。

 さて以上のような多種多様のいわゆる仏具は、初期仏教からすべて用いられていたかどうかというと、勿論そうとはいえない。教主釈尊は仏教教団(僧伽)に対しては至極簡素な生活を求められたという。釈尊は今日流にいえばシンプルライフの創始者とも称すべき方である。衣・食・住や持物に対して厳しい制限を与えられたという。執着を離れることが解脱への道であることを説かれ、必要最小限度のものであることを要求された。よく聞く言葉として「三衣一鉢」あるいは「比丘六物、比丘十八物」などはそれを物語るものであろう。しかしこのような厳格な規定も、仏滅後は次第に変化していったようである。また、仏教がインドから中国へ、あるいは西域地方、それから朝鮮を経て日本に伝えられる頃にはかなり趣の異なったものが伝えられていたことは想像にかたくない。それは仏教がインドから各地に伝播するうちに、その土地土地、あるいは国々の風俗・習慣が次第に混入し、また各地の気候や風土の微妙な影響がこれに加わり、からみ合って徐々に変化し、仏具のごときも次第にその数を増していったことと考えられる。そして遂には、そのものの本来の使用目的や意義などが忘れられ、いたずらに形式化し、本然のものと全く関係なく用いられたりするものなども生じたといえる。

 古来仏教の中で用いられてきた仏具(広義)について、そのひとつひとつをつぶさに研究したり、遺品や資料を整理してみることは、単に仏教の過去を知ることばかりでなく、その将来性をも考える上で頗る重要と思われる。

2.華鬘について

 華鬘は、花鬘、花縵とも書く。梵語では倶蘇摩摩羅(くすままら)という。倶蘇摩は華の意、摩羅は鬘の意である。わかり易くいえば花輪のことである。糸をもって多くの生花を連らね、これを結んで輪とし、頸や身につけて装飾するもので、元来は装身具のひとつであった。今日でもインドやハワイなどを訪れる観光客が首に花輪をかけてもらっている様子を見聞するが、こういう貴人に花輪を贈る風習は相当古くからあったようである。華鬘に用いられる生花の種類は一定してはいなかったらしいが、芳香を放つものが選ばれたようである。
  『十誦律』には華鬘について興味深い説話がある。「ある人が僧に華鬘を施したが、多くの比丘たちはだれもこれを受取らなかった。それは、華鬘を一体どのように使うべきかを知らなかったからである。このことを釈尊に問うたところ、釈尊はこれを受取ることをゆるされた。そして、その華鬘は釘のようなもの、くい(杙、杭)等を打って壁に懸けるように、そうすれば僧房は芳香を得ることができ、また施した人も福を得るであろう」と。華鬘については『大日経』や『蘇悉地羯羅経』あるいは『毘尼母経』に説かれてある。また、華鬘帯、天鬘、宝鬘という語が諸経の中に見えるが、これも華鬘をあらわす語と解される。わが国の文献では『日本書紀』の持統天皇三年の条下にみえる「花蔓」(はなかずら)がその初見であろう。しかし、これがどんなものであったか知る由もない。

 さて華鬘の現在最古の遺品といえば、それはやはり正倉院宝物の中にみられるものであろう。ひとつは「羅華鬘(らのけまん)」である。聖武天皇の葬送のときに用いられたもので、天平勝宝八年(756年)のものである。葛を芯にして緑地﨟纈(みどりじろうけちあしぎぬ)と花文夾纈羅(かもんきょうけちのら)で花結びの輪をつくり、これに夾纈羅の垂飾帯をさげたものである。それから花形裁文(さいもん)と鳳凰形裁文とがある。数は各十八枚ずつあるが、共に金銅板に複合花文や一対の鳳凰を透彫りし、ガラスや水晶玉を嵌装するもので、普通の華鬘とは一種異なった形をもっているが、これらもやはり華鬘と同じように堂内に懸けられて荘厳の具として用いられたものであろう。
  このように本来は生花を用いられるべきものが、羅を用いたり金銅板の透彫りとかで文様をつくったものを用いるようになった。これはいわば生花の代用である。華鬘代(けまんだい)という語は古寺の「資材帳」などに見えるが、おそらくこういうものをいったのであろう。これらはいずれも恒久性をもつものであった。

 他に奈良時代の華鬘として代表的な遺品として、奈良唐招提寺に伝わる「牛皮華鬘(ごひけまん)」というものがある。これは文字通り牛のなめし皮に白土をおき彩色したもので、大きさはなかなか大振りで、今日の大きな華鬘の倍くらいはある。(縦106.5、横83.2㎝)形は縦長で左右はほぼ対象的な形につくられ、宝相華や雲あるいは蝶、蓮華にとまる一対の尾長鳥や一対の鴛鴦(えんおう)を配している。なかなか意匠的にも秀れており、奈良時代の特色がよくあらわれていて、しかも他に類をみない優品である。同じ牛皮華鬘でも平安時代に入ると少し様子は違ってくる。現在奈良国立博物館が保管する旧東寺蔵の牛皮華鬘は都合十三枚あるが、団扇形でしかも少し小振りである。宝相華や迦陵頻伽などを透彫りし、美しく彩色するもので、すこぶる豪華なものである。しかし本来すべてを一具とするには問題があるが、時代的にはほぼ同時代と考えられる。この二例はいわば牛皮華鬘の代表であるが、他に京都の峰定寺や個人所蔵のものに古い作例がある。奈良興福寺や法定寺などにも中世の鎌倉時代から室町時代にかけて牛皮華鬘が遺っている。

牛皮華鬘(ごひけまん)
  
 
次に華鬘の遺品のうちで最も多いものは銅製のものである。

なかでも中尊寺金色堂の金銅華鬘が名高い。一対の迦陵頻伽の周りに宝相華唐草を透彫りしており、表裏とも美しく仕上げている。滋賀浄厳院伝来と伝える金銅透彫尾長鳥唐草文華鬘がある。鎌倉時代のもので、宝相華唐草の表現や薄肉打出しの尾長鳥の細工も優れている。兵主大社の金銅種子華鬘は蓮華をさし連ねて輪郭とし、総角(あげまき)を左右に開いて中央に金剛界大日如来の種子(バン)をおき下に蓮台をおく。意匠的にも奇抜であり、豪快な形を示し製作に優秀なものである。滋賀神照寺には嘉吉元年(1444年)頃につくられた金銅華鬘がある。以上指定文化財のほかにも見るべきものがある。

 

次に木製華鬘がある。

 これは木板に蓮華や鳳凰などを透彫りするもので、鎌倉時代から流行した。奈良霊山寺の華鬘は蓮華を紐で連ねて輪をつくり、中央に総角を飾るもので、華鬘が花輪であるという初源の形を想起させるに十分なものがある。

 奈良国立博物館にある木製の蓮華文彩色の華鬘は岡山弘法寺の華鬘と一具のものである。 
 木製華鬘はほかに鶴岡八幡宮や滋賀寂浄院、奈良室生寺などにも鎌倉時代末頃から室町時代にかけてのものがある。

 玉華鬘、これは水晶玉を銅線で貫連させたもので、中央に銅線を捩って総角をつくり、上には懸垂用の鐶座を設ける。この作例は神奈川の称名寺にある。
  正倉院にも「玉華鬘一枚」のあることが『東大寺続要録』に見えるが実物は明確でない。石山寺縁起に本堂の長押にこの玉華鬘のかけられてある図がある。

  糸華鬘、これは今日寺院や在家仏壇などにも最もひろく見ることができるもので、組紐でつくられた華鬘である。平安時代の初期からこの糸華鬘のあったことが『広隆寺資材帳』などから知られる。

  以上のように華鬘の遺品は奈良時代からの牛皮華鬘、金銅華鬘、それに木製華鬘、玉華鬘、糸華鬘など財質的にも多くのものがあり、形式も唐招提寺や正倉院の遺品を除いては、他はほとんど団扇形になる。そして意匠・文様は宝相華文、双鳥文、迦陵頻伽、蓮華文、唐草文などが一般的で、中には種子を中央に飾るものなども中世には出現することになる。そして余程の形変りなものを除いては、華鬘本来の姿の名残りともいうべき総角がみられることは注目すべきことであろう。

 細部的には釣金具(鐶座)垂飾、覆輪、それから使用銅板の厚薄、タガネ、魚々子の様子など個々の作例によって論ずべきことも多いがいまは略するところである。

3.経机について

 経机は、文字通り仏教経典を読誦するとき経巻を置く小机である。これを経卓、あるいは経案(きんなん)ともいう。机をいうことばに卓・几・案などがあり、文字の上ではそれぞれ異なっていますが、その意味内容はさほど明確な相違があるとも思えない。経机といい、または経卓ともいう。前卓といい、また前机ともいう具合である。しかし、かつて石田茂作博士は机と卓の違いを承ったとき、こう申された。「机は大体彫刻の飾りのないものをいい、唐様の彫刻のあるものを卓という」と教わったことがある。これは一応の目安になることばであるかもしれない

 先程、経机は経巻をおく机といったが、古くは経説、読経以外のときは経巻は経箱に納置せられ、それを小さな机の上に置いていた。この様な箱(櫃)と机とが一対になったものが正倉院などにあり、榻足(しじあし)机と呼ばれている。これはまさに天板に直接足をホゾ差しして着け、その足が外側に少し反っている。これが恐らく経机の原初形式と思うが、また聖徳太子勝鬘経講讃図にみるごとく、かなり丈の高い机で、四角な足が真直に立てられ、畳摺りの枠のついたものがある。この実物も正倉院に奈良時代のものがあり、足の数によって八足机、十六足机、三十二足机というふうに呼ばれる。これをわれわれは多足机と称しているが、これも経机の一つである。これらは石田博士のお説の通り全く彫刻などの飾りの一切ないものである。

   

 机にしても卓にしても、その区別は足形か、あるいは天板(甲板)の形かによっているようだ。倶利足(ぐりあし)を外側にするか、内側にするかの違いがあり、東西本願寺の机でもこの別があるように、微妙な変化がそのきめ手になっている。しかし机を大別すればやはり和様風のものと唐様風のものとの二つに分けることができる。和様風のものとしては先に挙げた榻足机や多足机などのシンプルなもの、それから四脚に優美な曲線をもった鷺脚のもの、それから天板が半月形(蝶形ともいう)をした、鷺脚三本の机があり、また天板の下に格狭間や竪連子など欄間をつくるものがある。
  厳島神社の平家納経の経絵には鷺脚の机がみられ、平安時代の遺品としては中尊寺に螺鈿平塵案と称する机が三基ほど現存している。天板は四方入角の長方形で、下の欄間に格狭間を透し、長い四本の鷺脚を備えている。他に鎌倉時代のものとして法隆寺や東大寺にある。この鷺脚の机は世に人気を得たらしく、かなり遺品は多い。この鷺脚を短くし、先端の彎曲部を切り落し、畳摺りを附したものが、今日いうところの春日形机である。しかしこれは机の最も肝要にして優美な脚先を失っていることによって美的要素は全く失われているといわねばならない。

   

 脚は鷺脚で、天板を半月形につくった蝶形卓といわれるものは絵巻物や繍仏などの図柄によくみられるもので三具足を置くのに用いている。遺品として大阪金剛寺や、白鶴美術館などにこの種の点がある。
 次に唐様の机であるが、これを禅宗様ともいう。大体鎌倉時代以降のもので、中国の宋時代の様式が伝わったものである。これは天板の両端に筆返しをつけ、欄間の部分に牡丹唐草などの透彫りを飾るものであり、その脚はS字状に彎曲する。そして脚の先端にまで唐花様の飾りを彫りつけるものがある。神奈川県鎌倉市円覚寺に鎌倉時代のものがあり、京都・岩王寺に室町時代のもの、桃山・吉水神社に桃山時代のものがある。
 経机の形を知る上で参考になるものに絵巻物にあらわれる経机がある。信貴山縁起、法然上人絵伝、慕帰絵など、また高僧の肖像画にも経机を前にして描かれたものがある。これらはその時代時代の特色をよくうかがわしめるものがあり、注意したいところである。
 今、因みに経机などの天板の両端にみる筆返しの形をみてみよう。これにはいろいろな形がみられるが、大別すると真・行・草三種に分けられる。

①真の形
②行の形
③草の形
・/div>> 真は①図の如きもので、ごく普通にみられるもので、今日の経机はほとんどこの形である。②の行はカマボコ形で、鎌倉時代から室町時代の経机の筆返しの一般的な形である。総じて高さは低いものである。③の草は近頃のものは少ないが、桃山時代頃の朱塗の机などによくみかける。また天板の下にみる欄間の格狭間もいろいろあるが、蝶形の格狭間で、奥に竪連子を入れるものが一般的である。脚は榻足風に前後に開くものが平安・鎌倉時代のものの特色であるが、桃山時代から唐様風の影響をうけて四方に広がりをもつものがあらわれ、欄間に彫りものを入れ、極彩色を施し、丸鋲(太鼓鋲)を打ったり、角金具、筆返しにまでも豪華な金具を打ちつけるようになる。また欄間の部分が引出しのようになるのもこの頃からである。そして机の高さも時代と共にだんだん高くなり、重心が上へと昇り、豪華ではあるが落付きのないものになる傾向がある。
 
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